有料公演と無償演奏を両輪にした活動設計
Baroquartは、企業向けの出張コンサートや自主公演で得た収益を原資に、介護施設・医療機関での無料演奏会を運営するという循環型の仕組みを採っている。小学校から高校までの教育現場にも出向き、生の楽器の音や合唱の響きに初めて触れる子どもたちへ演奏を届けている。福祉・医療の現場では、入居者や患者の前で30分から1時間ほどの院内コンサートを行う形式が中心だ。福利厚生プログラムの一環としてBaroquartを招く企業も複数あり、従業員が業務から離れて音楽に浸る時間を設けたいというニーズに応えている。
ある介護施設のスタッフからは「利用者の表情が演奏中にみるみる変わった」という声が寄せられたそうだ。有料と無料の公演比率は年ごとに調整しているものの、無償での活動を減らさないという方針は発足当初から揺らいでいない。経済的な理由でコンサートホールに足を運べない層にも届く仕組みとして、この二本立ての運営は地域の福祉関係者から一定の支持を得ている。逗子・鎌倉・葉山といった近隣エリアの施設からの依頼も年々増加傾向にある。
20代から80代が同じ譜面に向き合う現場
混声合唱団と室内楽団、二つの母体に20代から80代までのメンバーが在籍し、週ごとの練習で同じ譜面を囲む。初心者がパートリーダーの隣で声の出し方を覚える一方、何十年も歌い続けてきたベテランが若手の発想に刺激を受けるという双方向の関係が自然に生まれている。神奈川県逗子市に拠点を置き、地元在住者を中心に構成されているため、練習場所の確保や演奏会場の選定にも土地勘が活きる。個人的には、年齢差が60歳近い人たちがフラットに意見を交わしながら一つの曲を仕上げていく空気感が印象的だった。
プロオケを志向するアマートルアンサンブルという室内合奏団も立ち上がっており、より高い演奏精度を求めるメンバーの受け皿になっている。合唱団と合奏団は別組織でありながら合同での演奏会も行い、互いの技量や表現を吸収し合う場面が少なくない。アマートルアンサンブル側のリハーサルでは、パート単位の音程調整に1回あたり2時間以上を費やすこともあるという。こうした二つの組織の並走が、Baroquart全体の演奏水準を底上げしている。
ヘンデル「メサイヤ」をはじめとする古典への取り組み
レパートリーの軸にあるのは、ヘンデルのオラトリオ「メサイヤ」に代表されるバロック期から古典派にかけての合唱作品群だ。数百年前に書かれた楽譜を前にして、作曲者の意図や時代背景を読み解きながら音を積み重ねていく作業は、メンバーにとって技術の研鑽であると同時に歴史との対話でもある。初心者が経験者と同じステージに立ち、全員でひとつの大曲を完成させるプロセスそのものが、Baroquartの活動を支えるエネルギー源になっている。演奏会ごとに選曲テーマを変え、聴衆が同じプログラムを二度聴くことがないよう配慮されている。
直近の公演では、合唱パートとオーケストラパートの掛け合いに約3か月のリハーサル期間を充てた。本番前の最終通し稽古でようやく全体像が見えてくるという緊張感の中、メンバー同士が細かなニュアンスを擦り合わせていく。楽曲によっては古楽器奏法を取り入れる試みもあり、現代の楽器で当時の響きに近づけるための工夫が随所に見られる。こうした地道な積み重ねが、聴く側に届く演奏の説得力につながっている。
敷居を下げるための具体的な仕掛け
クラシックのコンサートにありがちなドレスコードをBaroquartは設けていない。普段着のまま来場できる旨を事前に案内し、初めての人が会場の入口で気後れしないよう配慮している。開場時間を開演よりかなり早めに設定して、席に着いてからプログラムノートを読む余裕を確保する運営方針も継続中だ。チケット価格は近隣のホールコンサートと比較しても抑えめに設定されており、家族連れでの来場者も目立つ。
「子どもが途中で声を出しても周りの目が気にならなかった」という来場者の感想がSNS上で複数見つかる。専門用語を使わない曲目解説や、演奏前の短いトークで楽曲の聴きどころを伝える工夫も、堅さを和らげる一因になっているようだ。逗子や鎌倉のコミュニティスペースを会場に選ぶことが多く、大ホールとは異なる距離感で演奏者と聴衆が同じ空間を共有する。こうした小さな積み重ねが、リピーターの増加につながっているという声も聞かれる。


