半世紀を超えて受け継がれる一貫生産の現場
長野県茅野市に構える生産拠点では、木材の選定から塗装、電子パーツの組み込み、最終的な音の調整に至るまで、すべての工程が一つの屋根の下で進められている。エレキギターという製品の性格上、各工程のわずかなズレが仕上がりに直結するため、株式会社ダイナ楽器は外注を挟まない自社完結の生産ラインを早くから整えてきた。世界的な楽器ブランドからのOEM受注を長年にわたり継続している事実が、この体制の精度を物語っている。工程の要所ごとに検査を設け、最後は経験豊富な技術者が一本ずつ状態を確認して出荷判定を下す。
個人的には、50年以上にわたって同じ土地で作り続けているという事実そのものが印象的だった。製造業では拠点の移転や分散が珍しくないなかで、茅野の工場に技術とノウハウが集約されている点は、品質の安定に直結しているように映る。熟練の職人と数値制御の加工機が同じフロアで稼働し、手の感覚とデータの両面からものづくりを支えている。こうした環境を維持できている背景には、人材の定着率の高さも関係しているはずだ。
未経験からでも技術が身につく育成の仕組み
楽器製造の経験がゼロの状態で入社しても、先輩職人がマンツーマンでつく指導体制が用意されている。基本的な工具の扱いから始まり、塗装や配線といった専門領域へ段階的にステップアップしていく流れだ。定期的に技能評価の面談が設けられ、個人ごとの成長計画が策定されるため、自分が今どの段階にいるのか見失いにくい。現場で手を動かしながら覚えるOJT中心のカリキュラムは、座学だけでは得られない判断力を養う構成になっている。
「わからないことをその場で聞ける空気がある」という声が社内では目立つ。作業中に浮かんだ疑問や改善のアイデアを遠慮なく共有できる風通しの良さが、技術の底上げにつながっているようだ。20代から40代まで幅広い年齢層が在籍しており、世代間で知識が自然に行き来する環境が形成されている。こうしたやりとりの蓄積が、組織としての技術水準を押し上げる原動力になっている。
働き方と待遇に見る職場の設計思想
完全週休2日制に加え、年次有給休暇の取得を会社として積極的に後押ししている。賞与は年間およそ5ヶ月分が安定的に支給され、社会保険も完全適用。経済面での不安を減らすことで、社員が製造作業に集中できる土台を整えている。
髪型や髪色、アクセサリーに関する規定がほとんど設けられていない点も、株式会社ダイナ楽器の職場環境を語るうえで外せない。ものづくりの現場でありながら自分のスタイルを崩さず働けるという条件は、特に若い世代にとって入社の決め手になることが多いという。労働安全衛生の管理体制も敷かれており、長く働き続けられる環境づくりへの意識が各所に見て取れる。
伝統の継承と新しい音への挑戦が交差する開発現場
ベテラン職人が数十年かけて培ってきた加工技術やノウハウは、体系的に記録・整理され、次の世代へ引き渡すための仕組みが動いている。同時に、音響工学の知見や新素材の研究成果を製品開発に取り込む試みも並行して進行中だ。株式会社ダイナ楽器ではこの二つの軸を切り離さず、一つの開発プロジェクトの中で伝統技法と最新技術を掛け合わせるアプローチを採っている。社内の部門横断的な連携に加え、外部の研究機関との協力体制もその推進力になっている。
たとえば、従来の塗装技法をベースにしながら新しい塗料の配合を試すといった取り組みでは、職人の手の感覚と実験データの双方が判断材料として機能する。こうした現場では「昔ながらのやり方を守る」と「変える」が対立せず、むしろ補完し合っている印象を受けるという声もある。長野県という土地に根ざしながら世界の音楽シーンに製品を送り出し続ける姿勢は、地域の製造業としても独特な存在感を放っている。


