アートを、飾りで終わらせない
アート作品は眺めて楽しむもの、という枠にヒトカケルデザイン事務所の仕事は収まらない。安井ちあきが掲げるのは、アートやデザイン、書を通じて地域を元気にし、人やコト・モノを掛け合わせて新しい価値を生むという目標だ。作品そのものの美しさに加えて、それが商いや暮らしのなかでどう働くかまでを見ている。描いて終わりにせず、売り上げや集客、地域のにぎわいへと接続させる発想が根っこにある。
商いに直結する入り口が、ロゴとPRツールの制作である。屋号や商品名を手書きの書体で起こし、同じ筆跡を名刺やチラシ、パンフレット、POP講座へと展開していく。見せ方の軸が一本にそろうことで、小さな店でも印象の輪郭がはっきりする。プランニングとコピーライティングまで同じ手が握るため、文字が売り上げの向上という出口から逆算して組まれていく。
描いて消せる画材が、店先で働く
遊びの道具に見えるキットパスが、商いの現場で思わぬ働きをする。水に溶けるこの画材を使い、ヒトカケルデザイン事務所はガラス面を生かしたディスプレイや、感染対策のためのパネルデザインを手がけてきた。描いて拭き取れる性質は、季節や催しに合わせて店先の見た目を変えたい場面と相性がいい。安井は水溶性キットパスアート本部の認定講師でもあり、画材の扱いを知り尽くした立場から提案を組み立てる。
同じ画材は、人を集めて学ぶ場でもよく使われる。キットパスアートのワークショップやインストラクター養成講座では、0歳の子どもから高齢の方までが同じ机に着いて手を動かす。描くことに縁遠かった人でも入りやすい間口の広さが、商いと教育の両面で画材の出番を増やしている。店先の実務から学びの時間まで、一つの素材が場面を変えて顔を出す。
村の催しと、地域とのつながり
ヒトカケルデザイン事務所の活動は、拠点である舟橋村の暮らしにも根を下ろしている。安井の作品は舟橋村のふるさと納税の返礼品に採用され、村の名前を外へ運ぶ役回りを担うようになった。地元のウッドクラフトマルシェに出展するなど、人の集まる催しへ足を運ぶ機会も多い。就労継続支援B型事業所せせらぎハウス黒部の皆さんと協働する取り組みにも関わり、アートを通じた地域内のつながりを結んでいる。
個人的に印象に残ったのは、作品づくりと地域活動が別々の顔ではなく、同じ一本の線でつながっている点だった。賞を狙うための制作ではなく、村や人の役に立つことの延長で筆が動いている。返礼品であれ催しであれ、その土地に少しでも活気が戻るならやってみる——という身軽さが、活動の端々ににじむ。だからこそ、手がける仕事の裾野が横へ伸びていく。
アートで、世界ともつながる
地域に向いた視線は、そのまま海の外へも伸びている。安井は京都で空間演出デザインを学び、国際交流の仕事に携わった経歴を持つ。いまもアートとデザイン、書を手がかりに、国を越えた交わりに取り組んでいる。台湾の運動工場へ20周年の記念作品を席上揮毫で納めた仕事は、その代表例だ。


